RETSNOM ( レツノム )という、この一見風変わりなタイトルの本作は、TGS(東京ゲームショー)2015内で開催されたインディーストリームフェスにおいて、Best of Narrative賞を受賞した作品である。
この賞は「独創的な物語と語り口によってプレイヤー魅了」した作品に与えられるもので、その後PCゲームのダウンロード販売サイト「Steam」やPS4での配信によって多大な人気を博していた。そして2016年10月、レツノムはスマートフォンゲームとして移植され、有料販売されることになる。価格は税込みたったの120円。実際プレイしてみればわかるが、これはかなりのお買い得な値段だ。
内容はパズルアクションゲーム。地形を反転させて進むという「鏡」を利用した斬新なゲーム性と、2Dドット絵で表現された特徴的なグラフィック、そして切ない痛みのある深いストーリーがプレイヤーを待っている。
ゲームレビュー
ストーリー
主人公はゾンビウイルスに感染した娘を持つ研究者で、娘を救うために未来に希望を持って時を超えることになる。
きっとそこにはワクチンが存在するだろうと考えた主人公は、未来の研究の奥深くへと進み、ワクチンを盗み出そうとするが……そこは何故か複雑すぎる構造となった研究所と、あちこちで蠢く異形のバケモノたちといった、ただの研究者である主人公にはあまりにも困難な場所となっていた。
しかし時を超える力によって、何度死んでも時が戻り「死ななかったことになる」主人公。そうして死を繰り返し、果てしない迷宮となった研究所を進むほど、主人公は苦しみ、悩み、何かを失っていく。
やがて次第に明らかになっていく「真実」とは、いったい何なのだろうか。
ゲーム概要
ステージの数は多く、クリアすれば自由に選択できるようになる。
進むほどに新しい能力が手に入ったり、奇妙な人物たちと出会ったりして、ストーリーが進行していく。
各ステージは迷宮のように入り組んでおり、きちんとした手順を踏まないと詰んでしまうといった、一筋縄ではいかない難易度になっている。
アクションゲームという以上に、パズルゲームの要素の方が強い。
ステージにはストーリーがついていることもあり、主人公の主観による文章が掲示される。研究所にはゾンビなど恐ろしいバケモノたちも徘徊しており、常に危険と隣り合わせの状況となっている。
その脅威、複雑怪奇なマップに対し、主人公は不思議な鏡の力を使った「反転」能力を駆使してゴールを目指す。
画面右下の反転ボタンをタップすれば、地形が左右に入れ替わる。これによって、壁で塞がれた先へと進むことができたり、バケモノたちを押し潰したり落としたりすることができるのである。
反転ボタンは長押しすると、どの範囲が反転するのか色付きで教えてくれる。これで常に反転後を確認しながら、先へのルートを作り出していくのだ。
総合評価
RETSNOM ( レツノム )はグラフィックがあえてドット絵で全てが表現されている。
だがドット絵だからといって、そこにはレトロ感やノスタルジー感などはない。ただただ「深く静かな異常性」と「奇妙さ」と、不思議なまでの「哀愁」が漂っているのである。
そしてピアノと弦楽によって構成されたもの悲しい音楽が、切なさをより深めていく。どれもサティやショパンなどの有名なクラシック音楽であるが、それが「未来世界の暗くて恐ろしい研究所」という舞台に、これ以上なくマッチしているのが、またとにかく不思議であった。
実に面白く、実に美しいゲームである。受賞作は伊達ではない。
ただその面白さとは、かなりの難易度といってもいい複雑怪奇なパズル性にあり、爽快なアクションを好むプレイヤーには向かないだろう。手応えはかなりあるが、クリアできた時は疲労感を覚えるような感覚の達成感となる。
また美しさとは、切なさのある透明な美しさであって、単純にグラフィックやストーリーが美しいというわけではない。本質的な、内奥にある美とでもいうか、とても「難解な美」なのである。
全体的にホラー作品の雰囲気があるというか、グロテスクな描写が多いのも注意すべきところか。なにせパズルで「詰んだ」時は、自分で頭を床に打ちつけて自殺するしかリセットする方法がないなど、常に死と血の表現がついてまわる。キツイ表現が苦手な人は手を出すべきではない。
と、いささかハードルが高めに思われる作品かもしれないが、それらをクリアできたプレイヤーには、きっと素晴らしい体験になるであろうゲームになることは間違いないだろう。
万人にはオススメできないが、共通の感覚を持ったプレイヤーに対し語りたくなる……そんな作品である。
口コミと評判
Best of Narrative賞受賞という肩書に負けない面白さがあり、ドット絵ながらも完成度の高いゲームアプリと言えるだろう。
口コミ評価は思ったほどの高評価ではないものの、やはり一定の評価は得ている。
もちろん、口コミにはネガティブな内容もいくつか見受けられたが、有料でありながらこれだけ高く評価しているプレイヤーがいるという事は素晴らしいの一言に尽きる。
最近ではスマホで遊ぶゲームは無料というのが定番だが、たまにはこのような有料ゲームを楽しんでみるのも悪くないだろう。ファミコン世代にとってはどこか懐かしい作品ですが、出来ればこのようなドット絵のゲームを是非若い世代にも楽しんでほしい。