本作は、レトロゲームを思わせるドット絵を用いた、雰囲気たっぷりのアドベンチャーゲームで、ミステリ+青春を描いた感涙ものの切ないストーリーを体感することができる作品だ。
見下ろし型の2DRPG調に描かれた世界の中、基本的にはタップだけという超簡単操作で、会話や調査を繰り返し、隠された真実に迫っていく。攻略に行き詰まったら、過去を記録した「キオク」を読み返し、情報を整理していこう。
広告が表示される代わりに、最後まで無料で楽しめるようになっているので、お試しでプレイしてみて、お話の続きが気になるようなのであれば、ぜひエンディングに辿り着くまでプレイしてみてほしい。
ストーリー
プレイヤーが操るのは、主人公の青年「中秋晋太郎」
故郷である山奥の村「待宵村」を出て、都心の学校に進学した晋太郎は、村祭りの日に合わせて4年ぶりに帰郷していたのだが、そこに4年前に死んだはずの同級生・相楽七海からの手紙が届く。
「お祭りの夜、展望台で待ってます」というメッセージに導かれるようにして、夜の展望台へと向かう晋太郎。
当然、死者が現れるはずもなく、夜はただただ過ぎていく。
やがて朝になり、晋太郎は部屋で目を覚ます。
すると、その日はまたしても祭りの夜がくる「8月14日」であった。
晋太郎は、村と、ループする8月14日に閉じ込められ、おそらく全ての鍵となるであろう七海の死の真相を解き明かすべく、孤独に探索を繰り返すことになる。
ゲームシステム
もの哀しい音楽とシルエットによるタイトル画面。
この1カットが、この作品の全てを物語っているようにも思える。はたして物語の結末はいかなるものとなるのか……。
基本には操作はタップだけ。移動したい場所や話しかけたいキャラクターにタップすることで、主人公が行動してくれる。
キャラクターとの会話では、時に選択肢が現れることもあるが、1回限りではなく、全ての選択肢を選んで話を聞くことができる。総当たりは古のアドベンチャーゲームのように思えて、なんとも懐かしい気持ちにさせてくれる。
行動や会話で手掛かりが入手できると「キオク」が更新され、新たな道を指し示してくれることもある。小まめにチェックしていくことも必要だ。
物語は章立てになっていて、特定のイベントを発生させると「次の8月14日」へと進む。前回の記憶と記録を残した状態で、再び8月14日を過ごし、謎へと迫っていくのだ。
またメインストーリーの合間には、村人や旅行者などからの「お願いごと」をクリアしていくサブイベントもある。特にクリアする必要性はないのであるが、実績解除のシステムも備わっているので、やり込み派のユーザーはぜひ挑んでいこう。
グラフィックや音楽
グラフィックはドット絵のレトロゲーム調で、独特の味わいはあっても美麗さはないものであるが、しかしピアノとストリングスによる実に美しい音楽と絶妙に混じり合い、不可思議な芸術的美として成立している。拙さや不完全さは、余計にプレイヤーの想像力を掻き立てる演出効果として成立しているようにも思える。
テキストは超一級。スマートフォン向けゲームの中では飛び抜けて優秀といっても過言ではないほどの完成度だ。メインキャラクターから画面の端の村人まで、実に深みのある台詞が割り当てられており、例えるなら『MOTHER』シリーズのような味わいがある。何気ないシーンやどうということもない会話が不意に刺さることもあるだろう。こうしたテキストを見るだけでも充分にプレイする価値のある作品といえる。
総合評価
アドベンチャーゲーム好きや、あるいはノベルゲーム好き、はたまた切ないストーリーが好きなユーザーなどには、傑作ともなり得る、たいへん素晴らしい作品である。
ゲーム性は薄いといえば薄いのかもしれないが、テキストが細部に至るまで優秀なこともあって、プレイヤーの感性によっては台詞1つからでも無限に世界を広げていくこともできるだろう。
ただオートセーブ機能がなく、手動で必ずセーブしなければならないところは、スマートフォン向けゲームとしては不適格だといわざるをえない。せっかくの完成度だからこそ、もう1歩システム面での作り込みがほしいと感じるのだった。プレイする人は、昔のようにセーブするのをお忘れなく。若いユーザーは、かつてそういう時代もあったのだと、ぜひ知っていただきたいものである。