消滅都市など、大ヒット作品を生み出してきたWright Flyer Studiosによる新作は、シナリオと演出に加藤正人氏、メインテーマに光田康典氏など、日本のコンシューマーRPG全盛期を作り出してきたクリエイター陣を迎えて制作した、シングルプレイ専用のファンタジーRPGである。
対人戦や多彩なイベントなど、コンテンツやコミュニティを増加拡大させる手法によって発展してきたスマートフォン向けRPGに対するような、はたまた時代に逆行するような、ストーリー重視の大作RPG的な作りであるが、そこには古臭さなどは微塵もない。
またそれは、原点回帰や温故知新という以上に、ああこれぞ和製RPGという安心感というか、本当に求めていたものに出会えたかのような喜びがある。
和製RPGのファン、オールドゲーマー、シングルプレイでまったり遊ぶのが好きなユーザー、ストーリーや世界観に重きを置くユーザー、などに深く刺さる傑作である。
ストーリー
舞台は王道ファンタジーというべきヨーロッパ調の中世世界で、主人公は村の警備隊員である青年アルド。
まず初めに、村を襲った魔獣王によって攫われてしまった妹のフィーネを取り戻すための冒険が幕を開けるのであるが……
……やがて物語は時空の歪をめぐる壮大な話へと膨れ上がり、未来世界、そして太古の世界を行き来する展開へと転がっていく。
メインストーリーで仲間が増えていくだけでなく、ガチャによっても仲間を増やすことができる。このガチャの設定、理由、そして演出が実に素晴らしく、あらゆる時代、時間、空間を飛び越えて仲間が増えていくといった壮大さと、ワクワク感がある。
キャラクターのサブストーリーがまたどれも秀逸。泣かせるもの、熱いもの、考えさせられるもの……テキストのクオリティはかなり高いといえるだろう。
ゲームシステム
ストーリーを進めていくと、美しいムービーが随所に挿入される。
まさしく大作RPGという趣きである。
広大な世界だけでなく、進めていくと、過去と現在と未来、さらに異世界や次元世界などを行き来する大々冒険へと広がっていく。
一度行ったことのある場所には、ダンジョンも含め気軽にワープできるよう作られているので、スマートフォン向けゲームらしく、ちょっとした空き時間に少し進めるといったやり方も可能だ。
町とフィールドはシームレスで、スワイプで自由に動き回ることができる。
フィールドではランダムエンカウントで敵とのバトルに。
バトルはターン制のコマンド選択式。きわめてオーソドックスな作りだ。
しかしそれほど平凡というわけではなく、パーティメンバーが増えていくと、チェンジという戦術が増えることになり、これができるだけで大きくバトルの緊張感や面白さが変化する。
特にコンボを繋いでの攻撃や合体必殺技の爽快感は、ぜひとも体験していただきたいといえる良さがある。
キャラクターは40を超え、全てにボイスが付き、個別のシナリオやクエストなども設けられている。
メインストーリーに関係しないキャラクターはガチャで入手できるが、同じキャラクターが出た場合は自動で強化されるなど、どんどん回したくなるような作りになっている。
課金石はクエスト報酬や記録達成でたくさんもらえるので、無課金でも充分にキャラクターを揃えられるだろう。
アビリティボードを使った育成要素などもしっかりと作られている。やり応えも充分にあるといえる作品だ。
グラフィックや音楽
グラフィックも音楽も、全体的にクオリティは申し分ないもので、コンシューマーの大作RPGといっても差し支えないほどの完成度である。
とりわけキャラクターデザインが秀逸で、あらゆるキャラクターが美しく、魅力的。
フルボイスとまではいかないが、それぞれにボイスが付いている点も良い。
あとは何といっても、シナリオの良さ、テキストの見事さを高く評価することができるだろう。
構成と展開も絶妙なので、ストーリー重視のユーザーほど、止め時を忘れてしまうほど熱中してしまうかも。
総合評価
文句なしの名作。久々に無課金では申し訳ないと心底思ってしまうほどのゲームに出会えてしまった感がある。
システムや演出のクオリティが高いだけでなく、特にシナリオが素晴らしく、物語への没入感があって、思わず寝食を忘れてやり続けてしまうほど熱中してしまった。
あと、他のプレイヤーと競う必要が一切ないという、シングルプレイに特化した作りが実に良い。元々日本人プレイヤーに最適なスタイルであったのではないかと思うほど、しっくりくる作りである。
といったこともあって、競争や協力など、ゲームをコミュニティの1つと捉えるユーザーには向かないところがある。
このゲームには、他者の存在など一切感じられない。ただプレイヤーである自分と、そこにいるキャラクターたち、そして描かれる物語だけが向かい合っているのだ。
それにしても、スマートフォン向けゲームで、記憶に深く残るようなRPGに出会えるとは思わなかった。