本作は、キャラクターデザインに『新世紀エヴァンゲリオン』の貞本義行氏が起用され、配信前から大いに話題となったスマートフォン向けゲームで、ジャンルはサスペンスミステリーRPGである。
主人公の、元ニューヨーク市警の刑事で現在は探偵を営む男「イアン・ハンター」を操り、世間を騒がせる「ブラックローズ事件」と呼ばれる未解決連続殺人事件の謎に迫っていく。
だがどちらかといえば物語とその展開は、キメラという名のモンスターとの戦いというホラー要素と、世界を裏から牛耳る闇の連合政府の存在といったサスペンス要素が絡み合ったものになっており、重厚感はあるがミステリーという感じはちょっと薄く、推理ものなど本格ミステリーを期待した人はちょっと肩透かしをくらった感はあるかも。
それでも多数揃えられたプレイヤーキャラクターは、どれもたいへん魅力的で、パーティのメンバーが増していくほどに世界に深みが増していくような感覚もあり、ストーリー重視のRPGファンはかなり楽しめる作品となっているといえそう。
ストーリー
舞台は現代のアメリカ……に見えなくもないが、実は「アース連合」という組織により地球がひとつの国家として統一されているという近未来。
まずこの設定が、ビジュアルから到底想像のつかない、予想の斜め上をいくものだったので、面を食らってしまう。
主人公のイアン・ハンターは、元刑事で今は探偵で、行方不明の弟「バード」は未解決連続殺人事件の容疑者で、大富豪の祖父から「ホテル・ザ・ペルゴラ」を遺産相続している。
……と、いささか設定を盛り込みすぎのような気がするが、今後はもっとアクの強い、さらに複雑な設定のキャラクターが続々登場するので、いちいち気にしていられなくなってくる。
ゲームを始めてすぐに、イアンは、特殊な武器を操る能力者「アンノウン」であるということも発覚する。また凄い設定が増えてしまった。
この情報量というか、詰め込みすぎなほどの展開についていけるかは、かなり人を選んでしまうような気がする。
公式のアプリ紹介
ゲームシステム
配信からまだ間もないが、コンテンツは一通り揃えられている。
基本的にはメインストーリーを進めていく形になるが、レイドボス戦や対人戦などもきっちり用意されており、やればやるほどやり応えは増していくことだろう。
メインストーリーのステージ数が充実しているだけでなく、サイドストーリーやミッションなどもかなり豊富に用意されており、簡単には遊び尽せない。
クリアやミッションで獲得したスフィアを使ってキャラクターを育成できるなど、やり込み要素も充分にある。
バトルはセミオート。プレイヤーはスキル発動くらいしかやることはないのであるが、フルオートにして全てを任せることもできる。倍速機能もあり、誰でも気軽にできるようなシステムとなっている。
ただ進めていけば、難易度の高いステージに挑戦した際、スキルを繋いでの連携を使った戦い方などをしなければクリアが難しいということも起こる。
キャラクターが増えていけば戦術の幅も大きく広がっていくことだろう。
ストーリーの前後にはアドベンチャーパートが挿入される。
ぬるぬると動くキャラクターは臨場感があって本当に素晴らしい。
フルボイスとはいかないが、随所にボイスが付けられているのも嬉しい。
グラフィックや音楽
Live2Dを採用したグラフィックは圧巻のひと言。たいへん美麗で、キャラクターも活き活きとしている。
バトル画面の、同時に異なる行動をとっている描写も素晴らしく、臨場感が凄いある。
配信前から最大の売りであったキャラクターデザインも、さすがといっていい完成度の高さ。本当にどのキャラクターも素晴らしい。
またそれらをさらに魅力的に引き立てる、背景や淡い色彩がまた見事なものである。アートワーク集などが発売されたら、ぜひとも購入したいと感じた。
さらに音楽も良い。ジャズやブルースを基調としたものになっており、これが根幹となって、作品を実にスタイリッシュかつ渋くカッコイイ雰囲気のあるものに仕上げている。
女性キャラクターも魅力的だが、それ以上に男性キャラクターの描写が良く、声優陣も豪華なので、女性ファンを中心に今後かなり盛り上がっていきそうな気配。
総合評価
クオリティも高く、とにかく雰囲気もあり、たいへんな魅力的なゲームといえる。特にLive2Dで豊かな動きや表情を見せる個性的なキャラクターたちは必見。女性ファンだけでなく、例えばペルソナシリーズなどの国産RPGが好きなユーザーにも、最適といえる内容だと思う。
ただ個々の設定が盛り込みすぎな上に、とっ散らかっている印象を受けてしまう粗雑感はマイナス。また構成もあまり上手くなく、どうにも話が盛り上がってこない。
毎回戦闘が「ついで」になってしまっている展開も酷いものだが、会話というものをよく理解できていないのではないかと思うほどの台詞脚本にも興醒めしてしまう。せっかくの良いキャラクターたちや世界観が台無しに。
それでもキャラクターデザインと、それを演じる声優たちの素晴らしさによって、この作品は活かされている。各世代から実力派がズラリと揃えられたキャスティングには注目せざるをえないだろう。
もしかしたら、この脚本のダメさ故に、同人界隈で余計に盛り上がっていくかも。その時、公式がどんなアップデートを見せていくのか、これは楽しみでならない。
まだまだこれから良くなっていく気配の漂う佳作。試してみて損はないだろう。