『真空管ドールズ』は美少女ドールを作成・育成しながらバトルに挑み、最強のドールマスターを目指すシミュレーション＋アクション＋RPGという複合的な作品だ。

そして、架空の空中都市を舞台に繰り広げられていくライトノベル調のストーリー、奥深さと複雑性を醸し出している世界観設定と、それを助長してくれる実に美しい芸術的イラストの数々と、ジャンルだけでなくあらゆる要素に強い個性を感じられる作品でもある。

ストーリー

ゲームのジャンルだけでなく、世界観や設定にも、美少女、サイバーパンク、レトロ、ノスタルジック、マニアック、空想科学、ファンタジー、ライトノベル、などの複合性が見受けられる。

メインストーリーのテキスト自体は、空想科学シリーズを思わせる内容を流行りのライトノベルの文体で描いているのだが、主人公の正太郎が引きこもりで、しかもゲームの目的が借金返済というあまりにもしょうもないところが、いささか感情移入できないという人も多いかもしれない。ただドールたちの設定や造形などはそれにリンクせずにいるので、メインを無視して１体１体のドールとの関わりを楽しむゲームとして遊ぶことも可能だ。

3DCGで描かれた可愛らしいドールたちは、声優によるボイスも搭載されているので、美少女ゲームのように捉えることもできるだろう。

ゲームシステム

ゲームを開始するとまずはチュートリアル。

複合ジャンルであるためか、やることやれることが初期段階から多すぎて、いささか分かり難ささえ覚える複雑なゲームシステムとなっているが、このチュートリアルのナビゲートはなかなかよくできているので、なんとかゲーム内容を理解することはできるかも。

メインシナリオだけでもかなりのステージ数があるが、他にもサイドシナリオやイベントシナリオなども充実しており、ボリューム感はある。

バトルは３人編成で、状況は常に１vs１となる。ドール同士の相性を見極めて交替しつつ、スワイプで操作していこう。移動させ、相手が射程距離内に入ったら攻撃してくれる。

架空都市……立体浮遊都市アキバスペクトラムは、こうした素晴らしいイラストの数々で見事に表現されている。かなり特徴的なバトル画面で、数年前までであればコンシューマ機でリリースされても注目を集めたであろうクオリティ。最初にプレイした時には、さすがに驚かされた。

時間経過でゲージが溜まったところでタップすれば、強力なスキル攻撃を放つことができる。『真空管ドールズ』はレースゲームではなくアクションゲームなので、相手チーム全員を撃破すれば勝利となる。

ストーリーのアドベンチャーパートだけでなく、ロード中にもイラストが挿し込まれる。見ているだけで満たされたような気持ちになるほどだ。

総合評価

グラフィック・キャラボイス

とにかく背景グラフィックやストーリーボードが美しい。その一点がまず大きく主張できる。そしてそのグラフィックは、１つ１つがストーリーテキストの数百倍の情報量が描かれており、ゲーム世界の広がりと奥行きを作り出している。それは完全に絵画芸術といえるもので、この絵の数々を見るだけでも、この作品をプレイする価値はあるといっても過言ではないだろう。

3DCGで描かれたドールは、さすがにイラストには負けてしまっているものの、きちんと丁寧に作られている印象で、決して悪くない。バトル画面の背景も、なかなか良くできていると思う。

また可愛らしいドールたちは、レア度が低いものにもしっかりと声優によるボイスが搭載されており、それぞれのキャラクター性がより豊かさに演出されている。声優には新人やPCゲーム声優だけでなく、大橋彩香や水瀬いのりといった若手人気声優に、戸松遥や沢城みゆき、水橋かおりに悠木碧といった実力派声優までキャスティングされているなど、かなり豊かな様相を呈している。

レビュアー感想

独特の雰囲気があり、とにかく個性の強い作品であるといえる。とりわけ深みのある世界観はたいへん素晴らしく、かなり「酔える」作品だ。世界の美しさ、ドールの可愛さ、そしてその両方の豊かさを満喫できるので、ゲームに雰囲気や没入感などを求める人には、実に適している作品といえるだろう。

しかしながら肝心のゲーム内容……シミュレーションとアクションとRPGという複合ジャンルは、ジャンルを相殺させている状態になっているように思われた。その結果、どれもが弱く、浅くなり、中途半端なゲーム性に落ちてしまっているのだ。よって、深いゲーム性や、各ジャンルそのものを求めているユーザーにはオススメすることはできそうにない。

また世界観こそよくできているものの、メインストーリーや主人公たちの設定がとにかく軽すぎて、完全に絵に負けていることや、テキストがあまり良いデキではないというところから、絵と同じくらいの重厚なノベルゲーム性などを期待している人はおそらくガッカリしてしまうのではないだろうか。ただ流行りのライトノベルといった文体なので、若いユーザーなどには向いているのかも。

あとはドールたちとのやりとり、育成などの要素により、美少女ゲーム好きにはオススメできる。どのドールもなかなか魅力的に作り込まれている。

またひたすらパーツ強化で周回し続けるようなゲーム内容でもあるので、ハック＆スラッシュ好きのプレイヤーも楽しめるか。

口コミ評判

前項に既述しているが、ターゲット層が中途半端なため、やはり口コミでも評判もかなり割れている。ただし、★5評価を付けている割合が一番高く、特定のファン層にはかなり気に入られているようだ。