本作は、伝承と伝説の残る離島「夕凪島」を舞台にした推理アドベンチャーゲームで、プレイヤーは主人公の青年「シュウヤ」を操作し、10年前の祭りの日に消えてしまった同級生「イヅル」を探し、島の謎へと迫っていく。
開発はSYUPRO-DXというチームで、同製作のアドベンチャーゲーム「彼女は最後にそう言った」などは、個人制作のインディーズゲームの中では、異例ともいえる大ヒットを記録した。
一見、RPGツクールの同人ゲームのような見た目だが、中身は実にしっかりした作りの、本格的な推理アドベンチャーとなっている。アドベンチャーゲーム好きやミステリファンなどにオススメできるだろう。
ストーリー
離島「夕凪島」では、わざわざ観光客もやってくるほどの盛大なお祭り「まがとき祭」が執り行われる。
10年前の祭りの日、主人公たち村の少年少女たちは、学校の校庭にタイムカプセルを埋め、かくれんぼをして遊んでいた。
やがて夜になり、みんな帰ろうとするが、1人「イヅル」という少年だけがいつまでも見つからない。
騒ぎになり、島中の人たち総出で捜索するが、結局イヅルを発見することはできず、行方不明となってしまったのであった。
現在、10年後の祭りの日、ふとしたことから主人公たちは、あの埋めたタイムカプセルを掘り出すことに。
すると、確かに埋めたはずの場所にタイムカプセルはなく、そこには「10年前のつづきをしよう」と書かれた手紙だけが入っていた。
あの時、かくれんぼの最後の「オニ」だった主人公「シュウヤ」は、再びイヅルを探しに動き出す。
ゲームシステム
モノローグやモノトーン演出などが巧みに利用された演出の数々には、思わずドキリとしてしまう。
ホラーとまではいかないが、サスペンス感の溢れる適度な緊張感が漂う作品だ。
プレイヤーは主人公を操作し、島中を探索していく。
操作は全てタップ。超簡単で、誰でも気楽に楽しめるだろう。
人との会話、ものを調べた結果は、キオクとして保存されており、回顧することが可能。
ある程度ストーリーが進むと推理モードに入るが、この時もキオクを確認することができる。
マップ表示やナビやガイドの機能も充実しており、謎解きで停滞することはほとんどないといえるだろう。
もちろん、アドベンチャーゲームが得意なプレイヤーは、それらに頼ることなく進めることもできる。
またメインストーリーを進行させる以外にも、サブイベントが多々用意されている。
島民や観光客のお願い事を達成するなど、なかなか面白いイベントが盛りだくさん。
ただこれらは実績として記録されるだけなので、無視してメインストーリーだけに集中してもいい。
グラフィックや音楽
グラフィックこそ、ご覧の通りのRPGツクール製かといえるチープなものであるが、音楽や効果音などがたいへん良く、上質のアドベンチャーとして楽しめる。
またそうした音楽や効果音を挿し込むタイミングなど、演出面が実に素晴らしく、何度も背筋をぞくりとさせられてしまった。
そしてアドベンチャーゲームにとって最も重要な「テキスト」がまた秀逸。ついつい先が気になる物語や、はっと気がつかされる台詞の数々、そして複雑な展開を丁寧にまとめあげている手法など、多くのゲームが見習うべき完成度の高さとなっている。
ボリューム感はやや少なく感じられるが、中編小説として考えれば十分すぎるほどの厚みではないだろうか。
総合評価
侮れないインディーズゲーム。こうしたゲームに出会えると、ゲームとは決して美麗なグラフィックや圧倒的ボリューム感が全てではない、ということを気がつかせてくれる。
とにかく構成が素晴らしく、虚実入り混じる展開の連続には、止め時を忘れしまうほどゲームにのめり込んでしまう。端々の台詞も秀逸なのが多く、ついつい登場人物に感情移入してしまうことも。
点が線となって繋がっていくのは、上質のミステリを読んでいる時の快楽である。この作品は間違いなく、アドベンチャーゲームのファンや、ミステリファンといったユーザーにオススメすることができるだろう。
またライトユーザーや、アドベンチャーゲームが苦手というユーザーにとっても、あらゆる場面でヒントやガイドなどのサポートを使用できるので、スムーズに進め、心置きなく物語を楽しめるはずだ。
決定的な問題点としては、スマートフォン向けゲームにはもはや必須ともいえるオートセーブの機能がないことか。昔のゲームのように、きちんとセーブをしてゲームを止めなければ、データが保存されない。これはもっと大きく注意などを表示してもいいと思えた。